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変化する中古住宅流通の仕組みと課題

○宅建業法の改正

 

宅建業法が平成30年4月1日から改正されます。既存住宅(中古住宅)取引に際して、宅建業者は売主・買主の意向に応じて建物状況調査(インスペクション)業者を斡旋し、買主に対して重要事項説明時に①インスペクション実施の有無及び1年以内に行ったインスペクションについては検査結果の概要、②建物の建築及び維持保全状況に関する書類の保存状況について説明しなければなりません。また、成約時には売買契約書に建物状況調査について売主買主双方で確認した事項が記載されることになります。

 

買主にとってのメリットは、検査で建物の状態を把握して購入できるので安心、リフォーム費用が積算しやすい、保証付物件である場合は安心等があります。

 

不動産業者に対するアンケートの結果では、費用をかけて検査をやるメリットが分からない、検査結果の説明が面倒、瑕疵担保免責特約を付けて取引を済ませたい、売主から嫌われる等後ろ向きな意見が多かったです。ところが、実際の売主側へのアンケート調査結果は意外にも、6割近くが「売り易くなると思う」との結果でした。

 

考えられる売主にとってのメリットとしては、瑕疵担保責任の回避、検査済物件や保証済物件として差別化できる等があります。

 

 

○住宅履歴

 

平成30年4月1日以降、不動産取引業者は重要事項として、買主に対して、「建築及び維持保全状況に関する書類の保存状況」についても説明しなければなりません。住宅の設計・建築工事・アフターメンテナンス・改築工事等、住宅に関わるできごと全ての情報を「住宅履歴情報」といいます。具体的には、それぞれのできごとによって作成される書類や図面、写真などが「住宅履歴情報」に該当します。 2009年施行の「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」によって認定される長期優良住宅においては所有者に対して「住宅履歴情報」の保存が義務付けられています。

今、住宅履歴情報について、自社サーバー上で保存を行う事業者が出てきています。

住宅履歴情報を保存・蓄積するメリットとして、主として以下の4つが挙げられます。

・“必要な時”に”適切な情報”を”迅速に取得する事”で、維持管理計画の確認ができる。

・リフォーム時の見積や実行を、スムーズに行なえる。

・不動産の売却時、住宅履歴情報の有無を買い取り価格に反映する試みが出てきている。

・災害等の緊急時に、迅速かつ適切な復旧や補修が可能。

 

○リフォーム、メンテナンス

 

インスペクションによって適切なリフォームとメンテナンスが可能となります。適切なリフォームとメンテナンスが既存住宅の価値の維持向上に役立ちます。そして、リフォームとメンテナンスの履歴を残すとともに、最終的に住宅履歴を建物価格に適切に反映することによって、合理的な既存住宅流通活性化が図られことになります。

 

 

○建物価格評価

 

性能保証やリフォームとメンテナンス等の住宅履歴について建物価格に適切に反映することが現在の住宅価格評価法ではできていません。現在の住宅価格評価法は原価法という方法で行われています。原価法とは対象住宅について、再建築するとした場合の建築費用を見積り、耐用年数に応じて減価修正を行って価格を求める方法です。原価法の場合木造建物なら25年程度で0円になるとの前提で算術的に再建築費用から経過年数に応じた減価額を控除して建物価格を求めていくため、リフォームによる価値の復元や、メンテナンスによる価値の維持等を反映させていくことが困難となります。現在行われている建物価格評価法に見直しが必要となっています。

 

 

○耐用年数

 

現在行われている建物評価法の一番問題となる点は、建物の耐用年数の判定です。

建物についての耐用年数には以下のものがあります。

 

使用年数

建物について現実に利用が可能な期間

ex)鉄筋コンクリート造 躯体65年

 

法定耐用年数

建物について減価償却を行うために法令で定められた耐用年数

「減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第一」が定められている。

 

ex)鉄筋コンクリート造 躯体47年

 

経済的耐用年数

建物について市場において価値を有する年数

ex)鉄筋コンクリート造 躯体55年

 

現在の耐用年数は主に法定耐用年数が中心となっています。 歴史的経緯から法定耐用年数が使用されるようになったといえますが、価格評価の場合には経済的耐用年数の把握が重要で、これについては、全国規模の実態調査等今後の調査を待つ必要がありそうです。

また、リフォーム又はメンテナンスの必要な期間、内容・量等、それらによって伸長する建物耐用年数についても、住宅メーカーの実証実験結果等を利用する等により、今後研究が必要です。

 

 

○適正価格

 

さて、建物評価方法については、不動産鑑定士協会連合会でもJAREA HASシステムを作る等研究を進めていますが、このシステムは不動産鑑定士の中で実際の試用者は少なく、広がってはおりません。その理由は、入力項目が多く、建物について専門的な判断も要求されるため、不動産鑑定士には使いづらいという点があります。低廉な報酬を推し進める反面、このままのスペックで更に精緻化を進めても、不動産鑑定士サイドが追い付いていけないものと予測されます。住宅価格評価の現場に携わることがある私自身は、ソフトの精緻化を進めていくことよりも、インスペクションを行う建築士と不動産鑑定士の協働体制をしくみとして作り、耐用年数等の研究を会として進めつつ、不動産鑑定士が評価を行えば、今すぐにでも、住宅価格評価を合理的な方向に進ませることも可能と思います。但し、建築士や不動産鑑定士に対して消費者重視という名目の下、今の様に国土交通省と不動産業界が報酬の低廉化を推し進めることは、今後制度に対する専門家全体の関心を高めることができない要因となっていくものと思われます。リフォーム施工等が期待できる建築業者はともかく、不動産鑑定士にとって今の報酬水準は「やればやるほど貧乏になる」という状況が予想されます。

国土交通省主導で進む中古住宅流通促進制度につきましては、建築士によるインスペクションによって劣化状況が明確化しても、価格への反映段階で不動産価格の専門家である不動産鑑定士が関わっていく法制度が未整備のまま、制度が進んでいくことでよいのかが課題として残っています。

 

 


 

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